【新連載】 nekozuki 太野由佳子の「あの人」に聞きたい!

「ネコ目線のものづくり」を掲げてオリジナルブランド「nekozuki」を展開する(株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役の太野由佳子が、猫や動物に関わるさまざまな活動や研究に取り組むプロフェッショナルたちにお話を伺います。

20年にわたり保護・譲渡活動に尽力〜「動物いのちの会いわて」代表 下机都美子さん

お話してくれた人…下机都美子さん
岩手県雫石町を拠点に、犬や猫の保護・譲渡活動、地域猫活動などを行う「動物いのちの会いわて」(2000年発足)代表。
聞き手…太野由佳子
(株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。猫社員ぽんちゃん、ちゃっくんは「動物いのちの会いわて」出身。2022年にあんこ、きなこが新しく仲間入り。この子たちも同会からお迎えしました。

賛同する会員の寄付金を主体に運営

太野 岩手でも、かなりの数の動物愛護団体さんが活動していますよね。

下机 私が知っているだけでも10団体以上。最近も続々と増えてますよね。私たち「動物いのちの会いわて」は2000年から保護と譲渡に取り組んできました。県内ではいちばん古いんじゃないかな。

太野 いのちの会いわての特徴ってなんですか?

下机 いのちの会は、主に私たちの趣旨に賛同してくださった方からの寄付金で運営しているのが特徴です。私たちは猫や犬を引き取る際や譲渡する際にお金を一切いただいていないんです。というのも、衰弱していたり過酷な環境にいる猫や犬を見て、助けたくても先のことを考えて助けられない人、いっぱいいますよね。助けたら飼わなくちゃいけないんだろうかとか、医療費がどれくらいかかるんだろうって。でも私たちは、救える命があったら迷わず保護でき、その命をつなげられる場所でありたいと思っているんです。いろいろな考え方や方法はあると思いますが、いのちの会は「お金のことが壁にならない命の救い方」みたいなものをずっと考えてきました。

もちろん、引き取り料や譲渡料をいただかないからといって、誰からでも、どんな状況でも引き取りますってことではないですよ。緊急を要するレスキューの場合は別ですが、そうでない場合は保護した方も一緒に頑張ってもらいます。保護主さんの状況に合わせて、保護主さんにできることをアドバイスさせていただきながら一緒に命を救う。譲渡まで共に頑張っていきましょうというスタンスです。それを金銭面でサポートしてくださるのが全国の会員さんであり、人的にサポートするのがいのちの会のスタッフや預かりさんだったりするわけです。

太野 支援会員さんは何人くらいいるんですか?

下机 今、会員さんが6000人くらい。物資など含めた支援者さんを合わせると8500人ですね。会費は年間3000円ですから、会員さんからの会費は1800万円くらい。

太野 活動にはどれくらいの金額が必要なんですか?

下机 昨年の実績でいうと3600万円くらいかな。充分な医療や保護施設拡充を考え理想をいえば5000万円。寄付のほかに募金や、カレンダーなどの物品販売などでまかなっている状況です。ほかに全国的なオンライン寄付サイトや動物愛護に取り組む企業からの寄付、またペットフード会社や医薬品会社からの物資の寄付などで運営しています。

太野 里親募集は譲渡会やホームページが主ですか?

下机 そうですね。譲渡会は矢巾と花巻で行っています。今度滝沢でも開催します。あとはホームページに里親募集のコーナーを設けています。

太野 これまでにどれくらいの犬猫を譲渡しているんでしょう?

下机 2000年創立時から2021年度末までに犬・猫合わせて累積で5722頭が新しい家族のもとに巣立っていきました。

動物を取り巻く問題の背後にあるものは?

太野 岩手では今年、ペットショップの廃業に伴い300匹を超える動物が取り残されるという問題が起きました。いのちの会さんでも猫を中心に多数の犬猫を保護されたと聞きましたが、ペットショップをはじめ動物たちを取り巻く環境について下机さんはどんなふうに考えていますか?

下机 より小さくて、よりかわいくて、みんなと違うものを持つことをステイタスとするような考え方がまだ日本にはあるんですよね。
秋田犬とドーベルマンをかけ合わせた子を引き取ってほしいという依頼があったんですが、どういう性格か、どういう状態で飼われているかがわからない子を引き取ることは私たちにも難しいです。獰猛な性質が強く出てしまっている可能性もありますよね。ほかにもラブラドールとダックスを掛け合わせたら足の短いラブが生まれて、子犬のうちは歩けたけれど、少し大きくなったら関節に障害が出て歩けなくなったという話も聞きました。こういった話を聞くと、モラル以前というか人間のエゴって怖いなと感じます。

動物愛護に関する法律の改正によって適正飼養のガイドラインが整備されたり、動物を虐待したり遺棄した場合の罰則は厳しくなりましたが、人間にしたのと同じように起訴されて裁かれることは少ないですよね。前進はしているけれど、まだまだ先は長いなという気持ちです。
今、私たちが特に力を入れて働きかけていきたいと考えているのが、生後どれくらいで譲渡・販売できるかという規制の部分です。現在は60日とされていますが、60日ってたった2ヶ月。それも販売直前に親から引き離されるわけではなく、そのだいぶ前に母乳途中で母親から取り上げてしまうんです。母親は、子どもと引き離されると本能的に次の子を産む準備を始めます。つまり、より短いスパンで出産させ子どもをたくさん生ませられるということなんです。

太野 子どもはもちろん、母体にとってもかなりの負担ですよね。

下机 そうですね。負担が蓄積すると障害のある子が生まれる確率が高くなっていきます。犬に多いんですが、水頭症の子などは発症に少し時間がかかるので、購入した後に障害がわかることも多いです。繁殖に使った子たちのその後の犬生・猫生についてもブリーダーさんの良心に任せられている状況で、すべての動物たちがよい状況にあるとはいえません。

太野 繁殖の現場まではまだ規制が行き届いていないということですね。

下机 譲渡・販売までの期間の延長は社会性を身につけるために必要と言われますが、それだけでなく、母親からすぐに引き離してしまうことに根本的な問題もあるんです。机上で考えられた法律と現実にはまだ大きな隔たりがあるなと思うこともたくさんありますね。

太野 初めて知ることばかりです。

下机 ペットショップで売れ残った子たち、最後はどこに行くのってみんな思ってるでしょ?

太野 すごく気になります。

下机 売れ残った子たちをまとめて安く買い取るブローカーがいて、そういう子たちをイベントなどで安く売る。あるいは繁殖業者に回されたり。悲しいことですが動物実験用に安価で買われていく子もいると思います。

太野 …言葉が出ないですね。私が一緒に暮らしている子たちがみんな保護猫出身ということもあり、常々多くの人にペットショップ以外の選択肢も持ってほしいと思っているのですが、さらにその思いが強くなりました。

下机 県内の廃業したペットショップにしても、以前から苦情というか、どうにかしてほしいという声はいのちの会でもいただいていたんです。でも保健所や行政が指導に入っているからとなかなか腰を上げられなかった。今さらですが、この件に関しては私たちもとても反省しています。行政と連携して動物たちを救う方法はなかったのか、もっと早く検討すべきだったと思っています。

今の時代、多頭飼育崩壊や、高齢や困窮による継続飼育困難など、どこかの組織一つがどうこうしようとしても解決できないことが多いんです。動物を取り巻く問題の背後には必ず、人間や社会の問題が存在します。これからは今まで以上に、愛護団体、行政、福祉団体など各組織が協力して取り組んでいくことが必要になると感じています。それから学校関係も。以前、子どもをネグレクトしている家庭から猫を引き取ったことがあります。20匹ほどの猫のお世話を子どもにまかせっきりだったんです。子どもでは十分にお世話できないのはもちろんですが、猫の世話をさせるために登校もさせない。そんなふうに、動物を通して今の日本の危うさや、社会状況の変化を感じることもとても多いです。

太野 現実の一端を知ることで、動物愛護活動や保護猫、動物に関わるさまざまな問題について一人でも多くの人が目を向けてくれるきっかけになればと思います。

下机 動物愛護の分野って、本当にいろいろな考え方があるんです。どれがいい悪いってことではなくてね。今日お話したのはあくまで私たち「動物いのちの会いわて」の考え方です。人間の都合で悲しい思いをする動物たちが一匹でも減ることを願って、これからも活動していきたいと思っています。

今回お話いただいた下机都美子さんが運営する
「動物いのちの会いわて」公式サイトはこちら >

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