秋から冬頃にかけて増加する傾向にある、猫ひっかき病。
地域性も高く、全国的にはまだまだ周知が広まっていない病気ですが、決して稀な病気ではありません。
猫ひっかき病研究の第一人者である先生に、猫ひっかき病に関するさまざまな疑問を伺いました。
猫に引っかかれたら注意!「猫ひっかき病」について専門家に聞きました。
常岡先生と大津山先生による「猫ひっかき病」の詳しい解説動画はこちら >
常岡 英弘 教授(特命)
大津山 賢一郎 講師
聞き手:nekozuki編集部 太野由佳子
(株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。ネコ目線のモノづくりでネコの困りごとを解決する商品を数多く開発。
この記事の目次
はじめに
ネコさんに引っかかれたら、「猫ひっかき病」や「パスツレラ症」などの病気に感染する可能性があります。
とくに猫ひっかき病は地域性も高く、全国的にはまだまだ周知が広まっていない病気ですが、決して稀な病気ではありません。
猫ひっかき病とは?
猫ひっかき病は、「バルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)」という細菌によって引き起こされます。感染経路としてネコノミが重要です。
バルトネラ・ヘンセレを保有するノミがネコさんに寄生し吸血する、あるいはノミのフン(※)を介して、ネコさんの血液中(赤血球)に感染します。(※バルトネラ・ヘンセレは、ノミの腸管に感染します)
バルトネラ・ヘンセレに感染したネコさんが毛づくろいをすることによって、ネコさんの体にも原因菌が付着することが考えられます。
そのため、ネコさんに引っかかれたという事実がなくても、ネコさんが感染していれば日常的な接触だけで飼い主さんに移ってしまう可能性があるのです。
“猫に引っかかれた際の感染症の可能性”について正しく理解したうえで、適切に対応することが大切です。
猫ひっかき病の初期症状や何科を受診すれば良いのかなど、猫ひっかき病に関するさまざまな疑問を、山口大学・医学部教授の常岡先生に伺いました。
【専門家インタビュー】猫ひっかき病に関するQ&A
患者が多い年齢層は?
Q1.猫ひっかき病の患者が多い年齢層はありますか?
A1.猫ひっかき病は、小児に多い感染症です。
私たちが猫ひっかき病の研究を始めたのは20年ほど前になります。以下は当時の調査結果をまとめた資料です。
188例中152例、約8割の患者さんが18歳未満のお子さんでした。現在もこの傾向にほとんど変わりはありません。現在我々に送られてくる検体も小児のものが圧倒的に多いです。
ただ、子どもに多く見られるものの、大人の方の症例もあります。年齢層は幅広く、性別による差もないため、誰もが感染する可能性を秘めています。
どの診療科を受診すれば良い?
Q2.猫ひっかき病は、どの病院を受診した場合もその場で診断が可能なのでしょうか?
A2.医師が猫ひっかき病を疑うことさえできれば、検査自体はどの病院でも可能です。
しかし検査結果はその場で出るものではありません。「検体を送る場所」によって、結果が出るまでに1週間または1ヶ月以上の日数を要します。
多くの場合、大手の検査センターに検体が送られますが、そのうちバルトネラ・ヘンセレの抗体価を測定できるのは、国内では山口大学だけです。本学以外の検査センターに送られた検体は、アメリカに送って検査をしています。そのため、検査結果が出るまでに約1ヶ月以上かかるのです。
一方「猫ひっかき病の検査=山口大学」という認識を持っていただいている病院は、直接山口大学に検体を送ってくれます。
我々に送っていただければ、1週間程度で検査結果をお伝えできるように努めていますので、より早く診断が可能です。
(※日本感染症学会・日本臨床微生物学会公認の先進的感染症検査機関に、猫ひっかき病の唯一検査可能施設として当大学が記載されています)。
猫ひっかき病とはどのような症状?
Q3.猫ひっかき病の症状として、定型例と非定型例はどちらが多いですか?
A3.8対2の割合で、定型例を発症する患者さんのほうが多いです。
猫ひっかき病の患者さんのほとんどが「ネコさんに接触あるいは引っかかれて、リンパ節が腫れてきた」という定型例に当てはまります。
非定型例で多い症状は発熱です。引っかかれていない場合であっても原因不明の熱が続くことがあります。
そうした場合、医師に「ネコさんと暮らしている」「最近ネコさんと接触した」など、ネコさんとの接触歴を伝えることで診断につながる可能性が高まります。
飼い猫でも感染する?
Q4.飼いネコさんでも猫ひっかき病の原因菌に感染する可能性はありますか?
A4.はい。飼い猫であっても猫ひっかき病に感染した症例はあります。以下の資料は「飼い猫の保菌率」を地域別に示したものです。
※資料内数値引用元:Journal of Infection and Chemotherapy 28 (2022) 112–115(日本における抗バルトネラ・ヘンセレIgM/IgG陽性率に基づく猫ひっかき病の季節的・地域的特徴の探究 より)
※山口県の数値は山口大学独自に調査したもの
野良猫になると、さらに保菌率は高くなると考えられています。
室内飼いのネコさんであっても、たとえば飼い主さんや家族が野良猫を触ったり、ネコさんが隙を見て外に出てしまったりすることもあるでしょう。
バルトネラ・ヘンセレに感染したノミがどのような経緯で室内に入り込むかはさまざまですが、まったく可能性がないとは言い切れないものです。
病気の存在を知っておくことで、万が一症状が出た場合に猫ひっかき病の可能性を推察できるかと思います。
予防するためのワクチンはある?
Q5.猫ひっかき病の感染を予防するためのワクチンはありますか?
A5.猫ひっかき病を直接的に予防するためのワクチンはまだありません。我々が研究課題のひとつとして挙げていますが、開発途上というのが現状です。
また、飼いネコさんの感染を知るための手段として、手軽な抗原・抗体測定キットの開発も目指しています。
しかしながらキットの開発によって、仮に飼いネコさんの感染が事前にわかったとしても、ネコさんに抗生物質を投与するというのは現実的ではないかもしれません。
やはり一緒に暮らす人間側が病気について理解したうえで、積極的な予防策をとることが最も大切なのではと考えています。
――常岡先生、本日はありがとうございました。
猫ひっかき病の感染を予防するための
効果的な対策は “定期的な爪切り”
愛猫からの猫ひっかき病の感染を予防するために効果的な対策は、定期的な爪切りです。
野生のネコさんは狩りをしなければ生きられないため、爪はするどくしておく必要があります。
しかし飼いネコさんは狩りをする必要がありません。爪は切ってしまってもまったく問題がないのです。
爪切りの頻度は、2週間~1ヶ月に一度が目安といわれています。しかし実際には、ネコさんの爪が伸びるペースや飼い主さんのライフスタイルなどに応じて無理なく対応するのがよいでしょう。
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おわりに
ネコさんに引っかかれたら、「猫ひっかき病」などの感染症にかかるおそれがあります。
軽症に見える場合でも、ただちに傷口を流水で洗うなどの適切な処置を施し、症状に応じて医療機関を受診しましょう。
病気の存在を知っておくことで、万が一症状が出た場合に猫ひっかき病の可能性を推察し、適切に対処できます。
猫ひっかき病への理解を深めてもらえたら幸いです。