「ネコさんには水道水を与えている」という飼い主さんは多いかもしれません。
ヒトにとっては安全な日本の水道水も、実は地域によって、ネコさんにとっては少々硬度が高めな水が出るところもあるようです。
この事実を知り、日本で唯一全国各地の水質調査を実施したという東京大学の堀まゆみ特任助教に、日本の水道水の実態について取材しました。
猫にとって日本の水道水は安全?全国各地の水質を調査した専門家に聞いてみました!
堀まゆみ 特任助教/博士(学術)
聞き手:nekozuki編集部 太野由佳子
(株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。ネコ目線のモノづくりでネコの困りごとを解決する商品を数多く開発。
この記事の目次
はじめに
堀まゆみ先生は、東京大学で「身近な環境化学実習」などの授業を担当し、水質調査を通じて学生に科学的な分析と研究のプロセスを教えています。また、福島県内の学校やNPOで放射線に関する教育活動も行っており、地域社会とのつながりを重視しています。特に、学生が自ら課題を設定し、実験を計画・実施することで、探究心と議論力を育成する実習が特徴です。
詳しくはこちらをご覧ください。堀まゆみ先生の研究内容
【専門家インタビュー】日本の水道水は猫に与えても大丈夫?
軟水と硬水の違いは?
堀先生、今日はよろしくお願いします。
さっそくですが、硬水と軟水の違いについて教えてください。
水質を表す指標のひとつに「硬度」というものがあります。硬度はおもに水の中のカルシウムとマグネシウム成分を、炭酸カルシウムという物質の濃度に換算して表したものです。炭酸カルシウムの濃度が低いと軟水、高いと硬水になります。
硬水と軟水で、カルシウムとマグネシウムの成分に違いはありません。「濃度が異なる」という点が、水の硬度の違いになります。
硬度とpHには、例えば「数値が比例する」などといった関係性はありますか?
いえ、それはまったく関係ありません。ちなみに日本の水道水の基準として、pH5.8~8.6以下の中性域でなければならないことが水道法で定められているため、硬度にかかわらず、日本の水道からは中性の水が出てきます。
硬度が高い地域と低い地域、特徴はある?
私が以前住んでいた岩手県・岩泉町の龍泉洞は、硬度が高いから鍾乳洞ができたという話を聞いたことがあります。硬度が高い/低い地域の特徴というのはあるのでしょうか?
山間部や雪がたくさん降る地域は、比較的硬度が低い傾向にあります。
逆に硬度が高い地域は、関東3県(埼玉、東京、千葉)です。平均的に見ると、とくに千葉県が最も硬度が高い地域になっています。
同じ地域でも、利用する水源によって硬度に差があることも
埼玉県、東京都、千葉県では、おもに利根川を流れている水を浄化して水道水として活用しています。利根川の源流である群馬県から千葉県まで流れる過程で、川の中に取り込まれる排水など、さまざまな影響を受けています。そのため、最下流にある千葉県に向けて、だんだん硬度が高くなっているのです。
それから、九州は阿蘇山の噴火の影響でミネラルが豊富な地質帯ということもあり、とくに地下水を水道水の主な原水として利用している熊本県では硬度が高めになっています。
また「サンゴ礁の島」である沖縄県も、硬水の地域です。沖縄の島の地質は「琉球石灰岩」という石灰岩でできていますが、石灰岩の地質の主成分はカルシウムです。
カルシウム分に水が触れることによって、水の中にカルシウムがどんどん増えていくので、硬度も高くなってきます。龍泉洞も同じく石灰岩でできた地域です。
同じ市町村の中でも硬度が異なる場合があると伺いました。原因はなんでしょうか?
同じ市町村の中でも、水の分配が異なるケースがあります。例えば自治体の中で浄水場をいくつか持っている場合、Aの地域は川が近いので川の水を使用する、Bの地域は地下水が豊富なので地下水を使用する……といった配分をしているので、同じ市内でも若干硬度に差が出てくることもあります。
日本の中でおもに水道水の元となっているのは、河川水、ダムの水、湖の水です。これらを総称して「表流水」と呼びます。一部の地域では地下水が主流で入っているものもあり、表流水の中に地下水をミックスしている地域もあれば、地下水そのものを水道水として使用している地域もあるのです。
ちなみに地下水は、表流水に比べてミネラルが豊富に含まれているという特徴があるので、硬度も高い傾向にあります。
どの水源が使われているのか、地域によって違いがあるなんて知りませんでした。ちなみに3~4ヶ月に1回ぐらいの頻度で、なんとなく水の味が変わったなと感じることがあるのですが……。
季節によって水質が変わることもあります。1週間単位での変動はそれほど見られませんが、年間のデータを見てみると20%ほど硬度に変化が見られることもあるんです。
あとは、元となる水に濁りが見られたり、pHが低くなったりすると試薬を入れて調整することもあるので、味の変化に関してはそうしたところでキャッチされているのかもしれないです。
浄水器を使えば軟水になる?
水道水の硬度が高めであった場合、浄水器を使えば軟水になると考えて良いのでしょうか?
製品ごとの浄水のプロセスにもよりますが、一般的にイオン交換樹脂が含まれたろ過材フィルターを使用している浄水器ですと、カルシウムやマグネシウムがキャッチされていくので、軟水の水ができあがる仕組みになっています。
水道水に含まれているミネラルごとの量を測定する方法はありますか?
分析機器を用いて測定すればミネラルごとの明確な数値がわかりますが、これは一般の方がご自宅で簡単にできるような方法ではありません。
ミネラルウォーターであれば成分表示の記載を見ることで確認できますが、ご自宅の水道水に関しては、明確な数値の測定は難しいところです。
硬水による人やネコへの影響について
日本の地域による水道水の硬度の違いは、ミネラル摂取に気をつけなければならない人やネコさんにとって、多少なりとも影響があると考えられるものでしょうか?
人にとっては水から摂取するミネラル分に関して、健康の影響というのはリスクが低いと言われています。水よりも食事から摂取するミネラル分の方が体には効いてくると言われています。
ただ、ネコさんは腎臓の病気が心配だと思います。信ぴょう性は分かりませんが、硬度が高い水をあげ続けていると、何かしらの変化が起こることは考えられるかもしれません。
――堀先生、本日はありがとうございました。
水道水の水質チェックに。nekozukiの「おみずちょうだい」
堀先生のお話によると、日本の水道水には以下の特徴があります。
- 地域によっては硬度が高めな場所もある
- 季節によって硬度に変化が見られることもある
上記の特徴から、ネコさんに水道水を与えている飼い主さんは、3~4ヵ月を目安に自宅の水質チェックを実施すると安心です。
nekozukiでは、自宅でカンタンに水質チェックができる簡易検査キット「おみずちょうだい」を販売しています。
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体の小さなネコさんにとっては、硬度が高い水を与えるほど尿路結石形成の原因につながりやすくなるほか、腎臓への影響も考えられます。
もちろん世界の水と比べると、日本の水道水は圧倒的に軟水ではありますが、ネコさんの尿路結石の可能性を高めることになるかもしれないとすれば水質チェックは欠かせないと言えるでしょう。
これまでなんとなく水道水を与えていたという飼い主さんは、この機会にぜひ水質チェックをしてみてください。
ネコさんの健康をお水から考えていただけたらうれしく思います。
おわりに
日本の水道水の硬度に違いがあることは知っていましたが、浄水場の水源や季節によっても違うこと、とても勉強になりました。
自宅の水道水をネコさんに与えている場合は、定期的にチェックできると安心ですね。
全国の水質を調査している堀先生の所属している東京大学のグループによる、水道水の硬度の調査結果です。
こちらもぜひ参考にしてみてください。
URL引用元:
Hori, M. et al., Sci Rep 11, 13546 (2021).
Hori, M. et al., Sci Rep, 14, 14167 (2024).
お住まいの地域の水質をマップで確認して、ネコさんが安心して暮らせる環境を整えてはいかがですか?