猫にアロマは危険!その理由と原因とは?【専門家監修】
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ネコさんにアロマってよくないの?

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ネコさんがいるとアロマは使っちゃだめなの?

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アロマのどんな成分がネコさんにとって危険なの?

ネコさんにとってアロマが危険だということをご存じでしょうか?

人間にとっては癒やしにもなるアロマですが、ネコさんにとっては命にかかわる毒かもしれないのです。

とはいえ詳しいことは解明されておらず、可能性の範疇でしか語れないのが現状です。

そこで今回は、動物のアロマセラピー専門家の甲能 純子さんに、ネコさんとアロマの関係についてお話を伺いました。

甲能さんは東京大学自然環境学で研究する傍ら、日本アニマルアロマセラピー協会の会長を務めています。

なぜネコさんにとってアロマが危険なのか、どんなふうに危険なのかを踏まえて、ネコさんとアロマの危険性について解説します。

本記事を監修してくださった専門家甲能 純子(コウノ アヤコ)先生

甲能純子(歯科医師・歯学博士)
東京大学自然環境学専攻 客員共同研究員
日本アニマルアロマセラピー協会会長
社)サイエンティフィックアロマセラピー協会理事

甲能先生からのひとこと
海棲哺乳類(とくにキタオットセイなどの鰭脚類)とオオカミの系統進化を研究しています。
数年前に交通事故で脳挫傷し、回復期間の間に匂い刺激が脳に与える影響を実感しました。この体験から嗅覚に興味を持ち、研究のかたわらで、精油の成分がどの様に生体に影響を及ぼすのかを学んでいくうちに、その素晴らしさもさることながら精油=薬物・毒物の認識が低いことにショックを受けました。とくに、一緒に暮らす伴侶動物は自分で選ぶことができません。精油の働きは素晴らしいものだからこそ、安全に使えるように選ぶ目が必要です。
飼い主さんとその伴侶動物たちが、心穏やかに長く一緒にすごせますように・・。
そんな思いで活動しています。

日本アニマルアロマセラピー協会では、動物とアロマについて詳しく学べる講座も開催しています。詳細はこちら。日本アニマルアロマセラピー協会 講座案内


聞き手…太野由佳子
(株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。nekozukiオンラインショップ運営。ネコ目線のモノづくりでネコの困りごとを解決する商品を数多く開発。

【猫とアロマQ&A】短編バージョンはこちら
vol.1「古くから使われてきたものならOK?」 動画を見る >
vol.2「アロマの成分が薄いものならOK?」 動画を見る >
vol.3「モルヒネやニコチンと同様に精油成分も脳の中に容易に入っていきます」 動画を見る >

こんな人におすすめ
  • ネコさんにとってなぜアロマがよくないのか知りたい人
  • アロマを使いたいけれど、ネコさんへの影響が心配な人
  • どこまで気を付ければよいか、考え方を知りたい人
  • ネコさんにとってのアロマの危険性について知識を深めたい人
  • そもそもアロマってなに?どんなふうに使うもの?

    アロマの小瓶

    アロマオイルは天然香料、エッセンシャルオイル(精油)、化学合成された香料をフェノールやアルコール、植物油などで希釈したものです。自然な状態の花や葉の成分が100~1,000倍に凝縮されています。

    ヨーロッパでは病気やケガの治療の補助としてアロマセラピーが取り入れられていますし、日本でもリラクゼーションなどの目的で利用されています。肌に直接アロマオイルを塗る、加湿器やディフューザーで精油成分を空気中に拡散させるといった使い方が一般的です。

    また、洗濯用の洗剤や柔軟剤、スキンケア用品などのほか、猫用のシャンプーやノミ対策、虫よけグッズにも精油やアロマを使っているものは少なくありません。

    人間がアロマの効果を得られるメカニズム

    もっと詳しくアロマに関する理解を深めていきましょう。

    ここでは、人がアロマの効果を得られるメカニズムについて、甲能先生に伺いました。

    甲能さん甲能さん

    アロマで得られる効果は「液体成分」「揮発成分」の2つの成分によるものです。

    液体成分による作用は、アロマオイルを使用したマッサージなどで得られます。

    精油の分子は非常に小さく、体のバリア機能を通過して血管にまで浸透します。血液循環に精油成分が入り込み、体内を巡ることで効果が得られる仕組みです。

    もう1つは揮発成分、いわゆる香り成分による作用です。

    スーッと鼻から吸い込んだときに、精油の成分を鼻粘膜の嗅細胞がキャッチし、嗅覚刺激が電気信号に変換されて、大脳へと伝達されます。

    そして大脳辺縁系から視床下部へと伝わり、心身に影響を与えるといった仕組みです。視床下部は自律神経の中枢にあたり、自律神経は体のバランスを整える役割を持っています。

    また、精油成分のなかには神経伝達物質やホルモン様成分と類似しているものもあり、同様の働きをすることがあります。その結果、精油成分によるリラックス効果が得られるといったものが、主なメカニズムです。

    最近の研究では、人間の病気に対する精油成分の効果が科学的に実証されるなど、精油成分が体に与える影響がさらに注目されています。

    とくに脳に関しては、鼻から電気信号として直接脳を刺激する成分と血液を介して脳に入ってくる成分、ダブルで刺激を与えることになります。

    また、精油には100種類から200種類もの成分が含まれており、そのバランスは植物の育った環境や収穫の時期、抽出方法などによって異なります。すべての人に対して同じように働くかというとそうではなく、相互作用も含めて様々な要素が影響するという点には注意が必要です。

    アロマの種類

    続いて、アロマの種類について解説します。

    一般的に「アロマオイル」などの名称で親しまれているアロマですが、同じオイルでも、エッセンシャルオイル、ブレンドオイル、アロマオイルというように名称が異なります。

    それぞれの特徴は、以下のとおりです。

  • エッセンシャルオイル:精油の原液。100%精油成分でできています。
  • ブレンドオイル:複数の精油がブレンドされたオイル。基本的には精油成分100%です。
  • アロマオイル:精油と基材(キャリアオイル、エタノール、グリセリンなど)が混ざったオイル。マッサージや入浴など、精油を直接肌につけるときに使われます。
  • 名称は違うものの、すべて精油成分が含まれた商品です。

    また精油成分が含まれる商品は、エッセンシャルオイル以外にも以下のようなものがあります。

    精油成分が含まれる商品の例
  • ディフューザー、リードディフューザー(精油やアロマオイルを加えて使用)
  • アロマキャンドル、お香
  • ボディオイル、ボディローション
  • バスオイル、バスソルト
  • シャンプー、コンディショナー
  • フェイスクリーム、ハンドクリーム、リップバーム
  • 石鹸、洗剤、柔軟剤
  • ルームスプレー、消臭スプレー(ペット用も含む)
  • パフューム、ロールオン
  • 虫除けスプレー     など・・・
  • 最近では、精油成分が含まれた商品が多数販売されており、アロマを身近に楽しめるようになりました。

    しかしこれらはネコさんにとって安全性が確認されているかというと、そうではありません。

    飼い主さんがネコさんにとってのアロマの危険性を十分に理解したうえで、適切に取り扱う必要があります。

    猫にアロマは危険と言われてるけど、なにが良くない?

    口を開けた猫

    私たちにとっては身近な存在であるアロマですが、実はネコさんにとってはとても危険なものだと言われています。一体アロマのどういったところがネコさんにとってよくないのでしょうか?

    危険だと言われている成分と実際にあった事例をご紹介します。

    猫に良くないとされる種類、成分など

    エッセンシャルオイル(精油)を構成している成分のうち、フェノール類やケトン類、リモネン、ピネンの4種類はとくに毒性が高いとされています。

    これらを多く含む植物でよく知られているものは以下です。

  • フェノール類:タイム、シナモン、クローブ、オレガノ、バジルなど
  • ケトン類:ミント、ローズマリー、セージ、スペアミントなど
  • リモネン:レモン、オレンジなどの柑橘類
  • ピネン:ユーカリなど
  • フェノールは溶剤としても使われますが、哺乳類全般に毒性があります。同じく溶剤として使われるアルコール類はネコさんには分解する能力がないため、非常に危険です。

    ネコさんがアロマオイルを体内に取り込む経路としては以下の3つが考えられます。

  • 舐める
  • 吸い込む
  • 皮膚から吸収
  • ネコさんがアロマオイル自体を舐めたり、アロマオイルを塗った飼い主さんの肌を舐めたりすることで体内に取り込みます。また、アロマオイルが付着した手で撫でるとネコさんの被毛に移ってしまい、それを毛づくろいの際に舐めて摂取する可能性もあるのです。

    ディフューザーや加湿器を使った場合は、空気中に成分が拡散されます。その空気を呼吸することで拡散されたアロマオイルの粒子が鼻の粘膜や肺から吸収されることになります。

    また、ネコさんの皮膚は人間やイヌさんと比べて薄いため、肌に滴下したりすると容易に体内に吸収されてしまいます。精油を皮膚に塗った5分後に血液から検出できたというデータもあるそうです。

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    皮膚の厚さは、ヒト1.5-4mm、イヌ1.15-2.4mm、ネコ0.4-2mmとされています。ネコさんの皮膚がとっても薄いことが分かりますね

    甲能さん甲能さん

    精油の分子は非常に小さく、人間が体内に持つバリア機能ですらも通過してしまうほどです。ヒトにとっては良い作用となるものも、精油成分の代謝が難しいネコさんにとっては「毒」となりかねません。ここに挙げたもの以外の精油に対しても、注意深く扱う必要があります。

    アロマが原因で起きたと考えられる事例

    アロマと猫

    1990年代のはじめごろに、ティートゥリー(オーストラリア原産のフトモモ科の常緑植物)から抽出された成分を配合したシャンプーやノミよけグッズを使ったところ、ネコさんが体調を崩したという事例が相次いで報告されました。

    このことから、皮膚から吸収されたティートゥリーの成分が中毒を引き起こしているのではないかと考えたのでした。

    ほかにも、複数のネット記事で獣医師などが以下のような事例を紹介しています。

  • ネコさんがアロマテラピーに使う精油を舐めたところ死亡した
  • 毎日アロマをたいていたら検査でネコさんの肝臓の数値が悪くなった(アロマをやめてしばらくしたら肝臓の数値が回復した)
  • ティートゥリーやペパーミントで肝障害が起きた
  • 今のところ、原因ははっきりしていません。ひとつの可能性としては、ネコさんが「グルクロン酸抱合」と呼ばれる肝臓の代謝の機能を持たないことがあげられています。

    「グルクロン酸抱合」は重要な代謝機構のひとつですが、肉食のネコさんは植物由来の毒素を代謝する能力が低いことが知られています。

    人間なら分解して無害化できる精油の成分が代謝できないため、毒物が体外に排出されず、中毒を起こしてしまうと考えられています。

    また、ほかの哺乳類には無害な芳香分子の「モノテルペン炭化水素類」に、ネコさんは過剰に反応するという話もあります。

    【グルクロン酸抱合の構造】

    甲能さん甲能さん

    ネコさんの肝臓の働きにおいて、特に注目すべきは代謝機能です。

    一般的に代謝と言うとエネルギー代謝を連想するかもしれませんが、ここでいう代謝は、体内に入ってきた毒物や薬物などの生体外物質を、酵素を使って水に溶けやすい物質に変えて体外に排出する働きのことを指します。この働きを行う酵素は肝臓内に多数存在します。

    これはネコさんだけが特殊なわけではなく、酵素の有無や働きの強さ・弱さなど、動物種によって違いがあります。

    代謝には第1相反応第2相反応があり、ネコさんの場合、第2相反応である「グルクロン酸抱合」を行う酵素が弱い、または欠如していることが多いです。そのため、ネコさんは毒物を水溶性の成分に変換しづらく、中毒を起こしやすくなっています。これは完全肉食動物に多い特徴です。

    この代謝酵素は興味深い特性を持っています。人を含む動物は、例えばネズミではAの酵素を使うのに対し、人間ではBの酵素を使うというように、同じ物質代謝に対して使う酵素が異なる場合があります。

    人間で言うと、人種による違いも見られます。欧米人と日本人ではアルコール分解酵素を持っている人の割合が異なりますが、日本人の方がアルコールに弱い人が多いと言われているのはこのためです。

    このように肝臓内の酵素の働きは、遺伝的要因や動物種ごとの違い、さらには妊婦、乳幼児、高齢者、持病のある人などの健康状態によっても異なるのです。

    猫がアロマを摂取するとどんな症状が出る?

    黒猫とアロマの小瓶

    ネコさんにとってアロマは大変危険だと言われています。ネコさんがアロマを摂取してしまった場合、どのような症状が出るのでしょうか?また、中〜長期的な危険性はあるのでしょうか?

    アロマを摂取するとあらわれる急性症状

    急性の中毒症状としては次のような症状が見られます。

    中毒症状
  • 涎を流す
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 元気消失
  • 食欲低下
  • 神経症状
  • 運動失調
  • 筋肉の震え
  • 抑うつ状態
  • 異常行動
  • めまい
  • 失禁
  • 活力喪失
  • もし、ネコさんにとっての危険性を知らずに使用し、上記のようなような症状が見られた場合は、かならず獣医師に相談するようにしましょう。

    中〜長期的影響も懸念される

    アロマはネコさんの体内で代謝・排出できずに体内に蓄積される可能性が指摘されています。そのため、現時点では明確な原因とは判定できませんが、何年も経ってから症状が出ることもあるのです。

    とは言え、ティートゥリーのように中毒性が確実にあると確認される例が新たに発見されるかもしれないのですから、油断はできません。

    とくに、代謝障害や神経障害を持つネコさん、肝臓の機能が未発達な子猫には影響が大きいかもしれないと心配している獣医師もいます。

    治療は対症療法のみだが、軽症ならすぐに回復する

    診察中の猫

    嘔吐や下痢で脱水症状を起こしている場合は、おもに点滴での治療をおこないます。また、食欲低下は、脱水や下痢、吐き気が落ち着けば大抵回復します。

    多くのネコさんは、皮膚の洗浄や点滴、下剤の投与などで2〜3日で回復するようです。

    甲能さん甲能さん

    ネコさんは植物由来の精油成分を代謝できない特質を持つので、精油の香り成分を浴び続けることで、体内に毒素が蓄積していき、最終的に中毒を起こすことも心配されます。

    ところが厄介なことに、すべてのネコさんに当てはまるかというと個体差が大きく、ネコさんのおしっこから精油成分が検出された、つまり代謝されたという症例もあるのです。これはそのネコさんは精油の影響を受けなかった、ということになりますが、だからといって「ネコさんにとって精油は安全なもの」とは言えないですよね。ここに判断基準の難しさがあると感じています。

    また、さまざまなアロマ商品がありますが、香りに関してはどこまで気を付ければよいか分かりづらいのが現実だと思います。

    日々ネコさんを観察し、少しでも体調の変化を察知したらなるべく早い段階で病院を受診し、適切な処置を受けることが大切です。

    【専門家インタビュー】猫とアロマに関するQ&A

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    ネコさんと一緒に生活する中で、アロマを安全に使用する方法はあるのだろうか?

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    あれもこれもダメなのかな……?

    ネコさんとアロマの関係について、はっきりとしない部分も多く、モヤモヤを抱えている飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。

    そこで今回、nekozuki編集部・太野が、動物のアロマセラピーに精通している日本アニマルセラピー協会会長の甲能 純子 先生と対談させていただきました。ねこずきのみなさまの声を代弁し、ネコさんとアロマに関するあらゆる疑問に細かくお答えいただいています。

    ネコさんと暮らす飼い主さんの疑問を解消する一助になれば幸いです。

    質問にお答えいただいた専門家
    甲能 純子 先生

    東京大学自然環境学専攻 客員共同研究員
    日本アニマルアロマセラピー協会会長
    社)サイエンティフィックアロマセラピー協会理事
    聞き手:nekozuki編集部 太野由佳子
    (株)クロス・クローバー・ジャパン代表取締役。ネコ目線のモノづくりでネコの困りごとを解決する商品を数多く開発。

    \甲能先生、本日はよろしくお願いいたします!/

    太野さん太野さん

    さっそく1つめの質問です。例えば長い歴史のあるアロマなど、人間に安全性が確認されているアロマならネコさんにも安全とは言えないものでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    “人に対して安全なアロマセラピーが行われているし、精油自体は自然のものなので、ネコさんにも問題ないんじゃないか”という考え方もあると思います。しかし、例え人にとって長い歴史があって、安心して使われているといわれていたとしても、事故が起こっていることは事実です。さらに、ネコさんにとっての精油の効果や安全性というものはまた別のものとして捉えなければいけません。

    ちなみに、精油は自然のものなのかというとそうではありません。植物から精油成分を取り出して濃縮しているという時点で、精油は人工物にあたると考えられます。

    “薬や毒と一緒”と言ったらぞっとしますが、そもそも医薬品の成分の70%は植物成分から作られていますので、そういった意味でも精油は薬理学的な作用があるものだということが言えるでしょう。その点で、精油の使い方や精油への認識を間違えていると、少々危険だなと感じるところがあります。

    薬に例えるとわかりやすいかと思いますが、本来体の中に入って効くべきところに効いたあと、代謝されて外に排出されなければいけないものです。精油も薬もサプリメントも、もちろん食べ物も、体にとっては生体外の異物ということになります。

    人と猫、犬……動物ごとにその異物が体の中を通っていく過程、代謝に関わる酵素が違うので、代謝の仕方もそれぞれです。ですから、人と同じように考えると危ないということになります。

    太野さん太野さん

    ネコさんと一緒に暮らす中でも、例えば「ネコさんのいない部屋でアロマを楽しむ」というのはOKなのでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    いいと思います。

    例えばネコさんのいない部屋でアロマディフューザーを焚いたあとは、完全に換気をして空気の入れ替えをすると良いです。精油成分は脳にダイレクトに影響を与えるため、“浴び続ける”という意味でも精油成分が漂った室内にこもるのはあまり良くありません。そのため私は人だけの場合であっても、アロマを楽しんだあとの換気を推奨しています。

    ネコさんがいる場合、なるべくネコさんから離れた場所で、戸は閉め切るようにしたうえで行い、ネコさんの体調に変化がないかもあわせて観察するようにしてください。

    太野さん太野さん

    では、飼い主さんがアロマディフューザーを焚いたりアロママッサージをしたりなど、アロマを楽しんだあとに気を付けることがあれば教えてください。

    甲能さん甲能さん

    最も懸念されるのはネコさんが飼い主さんの体を舐めてしまうことではないでしょうか。

    精油が体内に入る経路としては、鼻腔、皮膚、口からの3つの経路が考えられます。この中でも「口から精油成分を取り込む」のは、消化管を通るわけですから他の吸収とは違った危なさがあります。
    人間においても精油の経口摂取はNGです。できればネコさんが舐める可能性がある部分に関しては精油成分をしっかり洗い流しておくのが一番安全なのではと思います。例えば皮膚に付着した精油成分は、石けんで洗い落とせば大丈夫です。

    他にも精油成分を含んだスプレーやボディローションといった液体にも注意が必要です。

    特にスプレーの場合、噴射した霧状の液体が床にも付着することがあると思います。床についた液体をネコさんが直に舐めてしまったり、足で踏んでしまってそれを舐めてしまったり……ということも考えられるので、ネコさんの口から精油成分が入らないように気を付けてあげてください。

    太野さん太野さん

    ここまでのお話を聞く限り「ネコさんは人間と同じようにアロマを楽しむことができない」というのがうかがえます。そもそも人間と同じように、ネコさんがリラックスできる香りはないのでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    例えばネズミの場合では、ラベンダーのリナロールという成分によって心拍数が落ち着くといった効果があることがわかっています。ネコさんの場合、オキシトシンという「幸せホルモン」が分泌されることでリラックスしているかどうかを判断することができます。実際に実験を行えば、おそらくリラックス効果を測定できると思いますが、現在のところ詳細なデータはありません。

    ただ、「ネコさんがリラックスできる香り」という観点で考えると、ネコさんにも香りによるリラックスの感覚はあると思われます。精油の香り成分が直接影響を与える大脳辺縁系は哺乳類を含む多くの動物に共通して存在し、自律神経の調整にも関わっているからです。

    大好きな母ネコのニオイ(飼い主さんのニオイ)で、安心してリラックスすることは十分に考えられます。

    しかし、「香りでネコさんがリラックスできるか」というのと「ネコさんにとってアロマが安全か」というのは別の問題です。

    例えば飼い主さんご自身が精油でなんらかの効果を得たからといって、ネコさんも同じ香りで同じ効果を得られないものかと考えるのは安易な発想かなと思います。

    ちなみに香り以外のリラックス方法として、マッサージが挙げられます。皮膚の感覚から自律神経に伝わっていく刺激というのもありますので、ネコさんの体を軽くなでてあげるだけでもかなりリラックスできますよ。

    太野さん太野さん

    ありがとうございます。続いて、製品別に伺っていきます。

    ハイドロゾルやフラワーウォーターなども、精油と同様に注意した方がよいものでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    精油の製造方法は5種類あり、ハイドロゾル(芳香蒸留水)は水蒸気を通して芳香成分を得る「水蒸気蒸留法」で、精油を抽出する過程において作られます。

    芳香成分を含んだ水蒸気を液化させると、水よりも比重の軽い精油が上層に集まり、下層には芳香蒸留水がたまっていき、水と精油の層ができるといった仕組みです。

    【ハイドロゾルができる仕組み】

    甲能さん甲能さん

    そのためハイドロゾルにも精油の芳香成分が一部溶け込みますが、水溶性なので、精油とは違って体の外に排出されやすい成分ではあります。

    しかし、特定の実験結果などはありませんので、ネコさんにとって確実に安全とは断定できません。個体差もあると思います。

    精油に比べたら安全性は高いとはいえ、ネコさんに使用するときは、体調管理も十分にしてあげてください。

    また商品によっては、精油を薄めたものをハイドロゾルとして販売している場合もありますし、劣化しやすいものですので注意が必要です。

    太野さん太野さん

    ネコさんにとっては香水もあまりよくないのでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    香水の主な原料は、香料・アルコール・蒸留水の3つです。香水には合成香料が使われることが多いですが、天然の精油成分が使われている香水もあります。しかしここまでご説明した精油の特徴やネコさんの代謝を考えると、“香料が人工か天然か”は大きな問題ではありません。

    またネコさんはアルコールの成分を分解するのが難しいことから考えても、香水もネコさんにとっては危険なものと言えるでしょう。香水を控えるか、つける場合はネコさんのいない所で使用し、外から帰ってきたらネコさんが舐めないようにしっかり洗い流すといったことに気を付けてあげてください。

    ただ、飼い主さんご自身が気を付けることはできても、例えば遊びに来た友人が香水をつけていた、なんてこともあるかと思います。気になる場合は換気をしてあげるだけでも緩和されるでしょう。

    香りがこもった密室で、ネコさんが長い時間過ごすことがないよう気を付けてあげてください。もちろん差し障りのない範囲で、その方にお伝えするのも一つかなと思います。

    太野さん太野さん

    ネコさんにとっては、お香もよくないものになりますか?

    甲能さん甲能さん

    お香もアロマセラピーと一緒で、日本の「焚き物」と呼ばれるものです。

    お香の中には精油成分入りの商品もありますし、そもそもお香の成分自体は精油と同じ天然由来のものですので、気をつける必要があると考えています。

    お香とはちょっと違いますが、線香にも同じことが言えます。香料の中に、ネコさんが代謝しづらい成分が含まれていることがあるため注意が必要です。

    例えば仏壇に線香をあげるときも、ネコさんは別室にいてもらい、閉め切った部屋で行うのが無難です。空気の入れ替えも忘れずに行いましょう。

    太野さん太野さん

    柔軟剤や芳香剤、ヘアスプレーなど、アロマ成分が含まれた商品にも気を付けるべきでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    人間においても「香害」という言葉がありますが、特に香り成分を代謝しづらい特質を持つネコさんにとっては、やはり人以上に影響はあると思います。

    人との暮らしの中で、知らず知らずのうちに蓄積して中毒を起こしてしまうという事例も多々ありますので、飼い主さんが気を付けてあげなければなりません。人には安全に使えているものでも、ネコさんにとって大丈夫とは限らないということは心に留めておいてください。

    しかし一方で、あまりにも神経質になりすぎて「ネコさんに危険なものはすべて排除しなくちゃいけない」といった極端な考え方に走ってしまうのも、飼い主さんに気を付けてほしいところだと考えています。

    「できる限りネコさんに健康で長生きしてほしい」というのが飼い主さんの一番の想いだと思います。生活が回らなくなるほど、神経質になることでつらい思いはしないでください。

    大切なのは、見直すきっかけとして捉えていただくことです。例えば新しい商品を使い始めたあとにネコさんの体調が悪くなってきたり、様子がおかしいと感じたりということがあれば、その原因のなかに“香り”や“精油”などを疑ってみてください。

    また、例えば「無香料」と謳った商品の中にも、ネコさんにとって害を及ぼす可能性がある消臭成分などが含まれている場合があります。商品を選ぶ際には、どういった成分が含まれているのかも意識できるとよいでしょう。

    太野さん太野さん

    「ネコさんもアロマの香りが好きなのか、ディフューザーを焚く部屋に入ってきてちょこんと座っている」という声も見られました。代謝の仕方には個体差があると伺いましたが、ネコさんが香りを嫌がらなければ問題ないと考えてよいでしょうか?

    甲能さん甲能さん

    ネコさんが好む香りと、その香りがネコさんにとって安全なものかどうかは分けて考えるべきだと私は考えています。わかりやすい体験談を1つお話しますね。

    以前一緒に暮らしていたネコさんは、私が書道をしているときに必ず傍に来て、墨のついた半紙の上に座ったり、墨のニオイをくんくんと嗅いだりしていました。静かな場所が好きというのもありましたが、純粋に墨のニオイが好きなんだなと、当時の私は思っていたのです。

    それからもう1つ、私はゆずの香りの入浴剤が好きでよく入れていたのですが、その香りもまたネコさんが好きなものでした。

    そしてそのネコさんは、やたらと吐くコだったのです。

    当初はまさか墨やゆずの入浴剤が原因だとは思いもしませんでしたが、アロマの勉強をし始めたことがきっかけで「もしかしたらネコさんは香りが原因で具合が悪くなっているのではないか」ということに気が付きます。(※ゆずにはネコさんにとって毒性が高い「リモネン」が、墨汁には揮発性の化学物質が含まれています)

    それから、書道をする部屋にネコさんは入れずに、終わったらすぐ片付けるというのを徹底しました。ゆずの香りの入浴剤も思い切ってやめてみたら、対策から1ヶ月程度で吐くことがなくなったのです。

    墨もゆずもいけなかったのか、それともどちらか一方が原因だったのかは不明ですが、この経験から「ネコさんの好きな香り」と「ネコさんにとって安全な香り」は違うことを学びました。

    「香りがする場所でネコさんは落ち着いているし、好きなんだな」と考えてしまっていましたが、実はものすごく体に負担をかけていたのだと反省したできごとでした。ネコさんが大好きだったのは、“香り”ではなく“私と一緒にいること”でした。

    ですから、ネコさんが嫌がる・嫌がらないで判断するのは大変危険だと考えています。

    太野さん太野さん

    大変参考になるお話をありがとうございます。ネコさんのようすを見て、飼い主さんが判断してあげることが大切ですね。

    それでは最後に、読者のみなさんへメッセージをお願いします。

    甲能さん甲能さん

    アロマの危険性について、ネコさんと一緒に暮らす飼い主さんにはぜひ知ってほしい情報です。まだまだ話し足りないほど、お伝えしたいことはたくさんあります。

    それからもう1つ、飼い主のみなさんに大切にしてほしいことがあります。それは、どのような環境であれ、ネコさんを大切にする気持ちを第一に持ち続けてほしいということです。

    知識が増えた結果として、他人の飼い方に対して批判的になることがありますが、それが原因で飼い主さん同士の対立を引き起こしてはいけません。もちろん、ネコさんにとって危険なことがあれば伝えるべきですが、攻撃的にならずに、大きな視野で見守ってほしいなと思います。ネコさんの安全を守りつつ、飼い主さん同士がいざこざを起こさないようにすることが理想です。

    最終的な目標は「アロマがよい・悪い」とか「こういう飼い方はよい・悪い」という結論を出すために言い争うことではなく、「1匹でも多くのネコさんが幸せで天命をまっとうできること」だと思います。

    緊急事態のときに、無香料・無添加のフードを与えることができないこともあります。値段が安くて、香料や添加物が入っているかも……というものを与えざるを得ないときだってあります。理想的にはそうした状況のネコさんたちを減らしたいのですが、どういう状態のネコさんであっても分け隔てなく、気持ちを注いであげられるような社会を、ねこずきのみなさんで作っていってほしいなと思います。

    少しずつでもよいのでできることから始めて、ネコさんの健康と幸せを守っていきましょう。

    太野さん太野さん

    甲能先生、本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

    まだ結論は出ていないけれど、避けたほうが安心

    ネコさんとアロマに関する研究データとして信頼できるものはまだ存在していません。長期的な影響を調べた研究もデータもありません。そのため、現状ではアロマが有害だと決めつける確証がないのが現実です。

    獣医師の中でも、危ないのはティートゥリーだけで、ほかは気にする必要はないと言う人もいます。直接舐めたりしなければ大丈夫、少量ならあるいは薄めれば問題ないと考える人もいるようです。

    しかし、絶対に安全だと証明された精油・アロマオイルもまた存在しないと言われています。

    「短期的には害はなくても体内に蓄積する可能性がある。だから、室内の空気中に成分を拡散させる芳香浴だけでも中〜長期的な影響がないとはかぎらない。」と心配する獣医師もいます。

    以上を踏まえた結論としては、「ネコさんにとって害があるかもしれないものにあえて手を出す必要はない」しかありません。

    大抵の人にとってアロマは生活していく上で必要不可欠なものではありません。ネコさんのいる家の中には持ち込まない、ネコさんを近づかせない、というのがいちばん確実な対策になるでしょう。

    最後になりましたが、アロマの危険性については、こちらの記事でも紹介しています。とてもわかりやすいので、ぜひご覧ください。

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    【甲能さんオススメの使い方】
    ・お風呂上がりに顔につけて両手で覆って少し蒸す?感じで。(ほんのちょっとにしないと、ベタベタする)
    ・オイルが付いた手は、濡れた髪で拭く
    ・さらに手をモミモミしてハンドクリームがわりにする!
    ・手を洗わなくでもベタベタしない!

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